インドには、「ヒジュラ」と呼ばれる人たちがいます。
日本風にいえば「おかま」です。しかしただの「おかま」ではありません。インドにおいては、この「おかま」の世界は日本よりはるかに奥深いのです。今回の記事では、この「ヒジュラ」についてご紹介したいと思います。

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出会い

ぼくとヒジュラの出会いは今から遡ること約3年。デリーから1日かけて東へとインドを横断する列車に乗っていたときのこと。と、その前に、まずはインドの長距離寝台列車の常識をご紹介しましょう。

 

インドの列車

概要

インドの列車は車両のグレードが日本より幅広く分かれていて、それによって値段がかなり変わってきます。ふつうの日本人であれば、おおかたSL (Sleeper) 、Third AC、Second AC、First ACの4種類から選ぶことになります。
参考までに、各車両の概要と2016年11月某日のデリー-コルカタ間(1,300km)の値段は下記のような感じです(列車により多少異なります)。ACとはエアコンのことです。

 

AC 寝台 間仕切り 値段
SL 3段 Rs. 600
Third AC (3A) 3段 Rs. 1600
Second AC (2A) 2段 カーテン Rs. 2300
First AC (1A) 2段 鍵付個室 Rs. 4500

SLは庶民、AC付は中~上流というイメージです。
日本人であれば、Third ACまたはSecond ACに乗ることが多いかと思います。スリーパーに乗らない方がいいのは、暑いからではなく、客層的に盗難のリスクが増えるからです。

 

インドの長距離列車の一日

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インドの列車は日本とは違って、活気に溢れています。隣の寝台になった人とおしゃべりをするのは普通です。車両内の一部で議論が白熱し、誰かが演説を始めることもあります。

チャイやお菓子の売り子もよくきます。乞食の少年もよくきます。長距離なのでお弁当の販売もあります。Rs. 150(230円)くらいでエッグカレーなどが食べられます。活気はありますが、延々と続く草原・荒原の景色のせいもあってかのどかに感じます。

 

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夜8時か9時を過ぎると大体みんな消灯し、車内が暗くなります。昼は活気に溢れていた車内も、夜にはすっかりと静かになります。寝るときは盗難を防ぐため、バッグを枕代わりとするか、寝台の柱か何かにチェーンロックでくくりつけることが絶対です。
ぼくとヒジュラの出会いはThird ACにて、昼の活気と夜の静けさを一巡し、また明るくなり始めた時間帯でした。

 

平手打ちで目覚める(人生初)

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爽やかな早朝の時間帯。まだほとんどみんな寝ています。ぼくも寝ていました。
と、突然右頬に衝撃が走りました。目を開けると、にじんだ視界の中心には、真っ赤な口紅の周りに、青髭が生えていました。事態を飲み込めないぼくに、手のひらを向けて、なにやらまくしたてる口紅feat.青髭。

しばらく放置すると、その口紅は立ち去っていきました。少し離れたところで再度見てみると、とてもガタイの良い人間が、女性の伝統衣装であるサリーを身にまとっていることが分かりました。ぼくは気づきました。「おかまだ。おかまに殴られた。」

 

 

お金をむしりとっていくおかま

彼(彼女)を見ていると、次々と寝ている乗客に平手打ちを繰り返しては、手のひらを差し出してお金を要求しています。

しかも驚いたことに、半分以上の乗客から一人につきRs. 100(150円)ほどのお金をもらえているではありませんか。150円といえば小額に聞こえますが、インドではRs. 100あれば庶民のレストランで一食食べられます。日本人の感覚でいえば600円といったところでしょうか。まあ、インド人は日本人よりも貧富の差がとても激しいので、「インド人の金銭感覚」という言葉はあまり的を射ないのですが。

結局、その日は彼の正体については何も分かりませんでした。

 

 

 

ヒジュラとの再会

衝撃的な出会いから3年。ぼくはムンバイで同僚と二人、車に乗っていました。そこでふたたびヒジュラと出会いました。

 

ムンバイの路上にて

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ムンバイは渋滞が酷いのですが、そのときもいつもどおり渋滞に巻き込まれて車が止まってしまっていました。ぼんやりと外を眺めていると、やたらとガタイの良い女性が別の車の窓をたたいてお金を要求しているではありませんか。ふつうインドでは路上で車に近づいてお金を要求するのは、土埃で汚れた子供か子連れの女性と相場は決まっているので、この光景はとても目立ちます。

しばらく見ていると、そのガタイの良い女性がちらりとこちらを見ました。しっかりと、口紅と青髭が確認できました。おかまでした。

 

蘇る記憶

ぼくはすぐに、あの列車での悪夢のような体験を思い出しました。と同時に、三つの疑念が沸き起こりました。

  1. 彼らの正体はいったい何なのか。
  2. なぜ彼らはお金をせびるのか。
  3. なぜ人々は彼らにお金を渡すのか。

これらは考えても解決できないタイプの疑問なので、同僚のインド人に聞いてみることにしました。以下では40代妻子持ち頭脳労働者月火限定ベジタリアンお酒大好きな同僚インド人による解説をご紹介します。

 

インドのおかまの正体

彼らはどこからきて、どこへゆくのか。

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彼らは「ヒジュラ」と呼ばれる存在で、身体は男性に生まれたものの、心は女性に生まれた人たちです。

彼らは一般人とはまったく異なるコミュニティを形成しています。どこかの家庭にそうした子供が生まれたことを聞きつけると、その子供をさらっていくそうです。実態は定かではありませんが、そこで少なからぬ男の子が男性器を切除されるそうです。このようなリクルートシステムなので、彼らのコミュニティには血縁が(滅多に)存在しないことになります。

彼ら自身に子供が生まれ、その子が性同一性障害をもたなかった場合はどこで育てられるのか。一瞬、そうした疑問が沸きましたが、少し考えれば分かるように、彼らには子供ができることはありません。

 

なぜ彼らはお金をせびるのか。

インド社会において、ヒジュラは普通の職業に就いてはいけない、または、就くことはできないとされており、乞食のようなことをする以外に、お金を得る手段がないようです。

電車や路上の他に、結婚式にもよく現れるそうです。結婚式での要求額は法外に高く、5万ルピーといった大金を要求されることもあるそうです。そして多くの場合、インド人はこれを値切ることはあっても、拒むことはしないそうです。

 

なぜ人々は彼らにお金を渡すのか。

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なぜインド人は、ヒジュラにお金を要求されると渡してしまうのでしょうか。

その理由は、ヒジュラには何らかの不思議な力があると信じられているからだそうです。彼らにお金を渡さなければ大変なことが起こると信じられているので、お金を渡すのだそうです。

納得できるような、できないような。

 

 

インド人と日本人の心

いくら不思議な力があるからって、見知らぬおかまに10万円もの大金を渡すのはやはり信じられません。

 

寛容の文化?

インドには神秘的なものを受け入れる文化があるということなのでしょうか。インドにおいても信仰心は昔よりも薄れてきていると言いますが、やはり日本とは全く違うと感じます。たとえば、ベジタリアンが非常に多いです。また、週1くらいのペースで何かしらの宗教的なイベント・祭りがあるように感じます。車でお寺の前を通るときには多くの人がお祈りのポーズをします。

「なぜかよく分からないけど、すごいとされているもの」をそのまますごいと受け入れてしまう寛容の文化があるのかもしれません。

 

喜捨?

また、喜捨の考えが浸透しているため、神聖な存在・弱い存在に身銭を切ることに抵抗がないのでしょうか。インドでは乞食の少年少女にお金を渡している光景をよく見かけます。ぼくの考えでは、少年少女にこそお金を渡さない方がいいと思うのですが…。ともかく、ヒジュラにお金を渡すのも、この文化の延長なのでしょうか。

 

 

いずれにせよ、日本人とインド人って行動様式が本当に違うなぁと思います。